2020年03月17日

こまつ座 第130回公演『イヌの仇討』








'20. 3.15.


 こまつ座 第130回公演『イヌの仇討』(高知市民劇場第342回例会)


会場:高知市文化プラザかるぽーと大ホール


 新型コロナウィルス禍のもと各地のライブ公演が中止されているなか、果敢な公演決行だったが、入場に際して手指のアルコール消毒を求め、セルフもぎりで配布物の手渡しもしない取り置きに加えて、マスク未着用者には用意したマスクを配布して装着を求めるという最大限の措置を取ってまで行っただけのことはある、実に時宜に適った舞台だと思った。三十一年前の第158回例会で観たときよりも身につまされるものがあるように感じられた。


 オトモダチならぬ母親の意を汲むことと世間の風評を気にしながら行き当たりばったりのその場しのぎの裁定によって、赤穂藩と高家を翻弄した時の政権たる綱吉の治世。当初は浅野内匠頭の狼藉を謗りながら、義士による仇討圧力に同調し、徒に吉良上野介義央を敵役に仕立て上げた民衆の愚かさ。その二つこそが招いた“猿芝居ならぬイヌの仇討”だったとの物語は、三十一年前に観たときも、流布されている討ち入り話よりも遥かに理が立ち、筋が通っていると感心したものだったが、特に近年、世界中で目立ってきているポピュリズム政策に傾く政権の惨状を見事に衝いているように感じた。


 ポピュリズム政策のタチが悪いところは、まっとうな責任感覚を備えている者なら発しない無責任で偏ったメッセージのほうが政権に届きがちであることだ。本作でも、庶民の代弁者たる砥石小僧新助(原口健太郎)が赤穂浪士及び高家の人々の誰一人の真実を知らないまま、無責任に仇討ち決行の有る無しをネタにした賭けに自身も加わっていたことの非を詫びる場面があったが、当時それが流行していたとしても、庶民の過半数を占めるマジョリティとして参加していたはずはないわけで、盗っ人新助の反省の弁や吉良家御女中頭お三(西山水木)の指摘どおりの顰蹙を買っていた部分も必ずあったろうと思う。井上ひさしが本作を書いた'88年当時の日本の首相は、消費税導入を果たした“ほめ殺し”の竹下登だったが、時事的に特に思い当たることは浮かばなかった。


 それにしても、吉良上野介は実は卑怯者でも嫌味な強欲でもなく、剣術の腕前も確かな白髪の品のいい老人だったとする井上の解釈が、浅薄な逆転による内蔵助を敵役に替える物語になっていないところが流石だと改めて思った。そして、不確かな伝聞ではなく、自分で資料に当たったり、きちんと出典(発信元)を確認することでこそ得られるリテラシーの重要性を問わず語りに訴えている部分が、今やインフォデミックなどという言葉が流布されるに至っている情報過多拡散社会にあって、意義深さを増しているところに大いに感心した。資料漁りの虫だったらしい井上ひさしが吉良上野介義央について調べたであろう事々がたっぷり詰まっていたように思う。


 例会カレンダーの出演者に三田和代と記されていたのは、お三の役だと思われるが、替わって西山水木が演じていた三は、凛としていてなかなか良かったように思う。義央(大谷亮介)の命をこそ惜しむ吟(彩吹真央)と名を惜しむ三の競り合いと和解が対照しつつ浮かび上がらせていたものに納得感があって、作品に厚みをもたらしているように感じた。名を残した内蔵助と、名を損ねた義央にあって、作中で義央が、内蔵助の美化された“昼行燈”逸話に正論とも言うべき異議申し立てをしつつ、今般の仇討に至る彼の真意を看破し、天晴れと加担を覚悟するくだりは圧巻だった。


 先ごろ全国一律一斉休校要請を首相が発したときに友人のフェイスブックに「感染防止効果という点で実に覚束ないというか、まさにダイヤモンド・プリンセス号でやった中途半端なゾーニングのような「ろくに効果なく乗客に難儀をかけただけ」みたいな対応策にしか見えない。影響の大きさからして、やらないよりマシみたいな感覚で「要請」すべき事柄ではないのは、いま生じている混乱を見るまでもなく、一目瞭然じゃないのか。 なんか感染自体よりも恐ろしい事態が起こっているような気がするわけよ。新聞報道によれば、今井補佐官の進言で首相が荻生田文科大臣の抵抗を押し切って唐突な発表を行ったらしい。また、基本方針を検討しているメンバーからはその報を見て、基本方針検討会でも聞いていなかった事態への説明を求めたいとの書き込みもあったらしいし、なんかもう政策決定が滅茶苦茶になっている気がする。コロナよりもタチの悪そうなアベ・ウィルスじゃん、これじゃって感じ。 なんだか生類憐みの令を発した綱吉と側用人柳沢吉保を想像させずにおかない令和の大発令のような気がしたよ(とほ)。」などと書き込んだときには、特に本作を意識してはいなかったのだが、その思わぬ符合が哀しくも可笑しかった。









  ヤマ

http://www7b.biglobe.ne.jp/~magarinin/


   (『間借り人の映画日誌』)

http://www.arts-calendar.co.jp/YAMAsan/Live_bibouroku.html

   (『ヤマさんのライブ備忘録』)





posted by アーツワークス at 21:06| Comment(0) | TrackBack(0) | 演劇・パフォーマンス系
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