2019年12月08日

劇団文化座 公演『銀の滴 降る降る まわりに―首里1945―』(高知市民劇場第341回例会)








'19.11.26. 劇団文化座 公演『銀の滴 降る降る まわりに―首里1945―』(高知市民劇場第341回例会)


会場:高知市文化プラザかるぽーと大ホール





 何の予備知識もなく観たものだから、開始早々に「上からは同等に扱えと言われている」とのなかで、雑役を押しつけられてばかりいる炊事兵の冨田一等兵(皆川和彦)が登場した際に、ありがちな朝鮮人日本兵という設定に違いないと思ったら、アイヌ人との設定で大いに意表を衝かれた。そういったことのみならず、隅々までありがちな軍隊ものとは一線を画していて、悪役もヒロイックな人物も誰一人いない人物造形に感心するとともに、“不完全なる人間”の愚かさや至らなさと共にある健気さが、とても誠実に描かれていて、心打たれた。


 沖縄戦を舞台にした芝居のタイトルがよもやアイヌ語だったとは、本当に思い掛けなかったのだが、そのことが明かされた一幕の終わりに、だから如何にも南国沖縄を思わせる木々の設えではなかったのだなと得心がいった。アイヌの神の使いだとの梟の似合う樹は、やはり椰子のようなものであってはならないわけだが、満州の極寒の地から移送されてきて暑さに閉口している場面から始まる本作の舞台装置がちっとも沖縄っぽくみえないことを不審に思った謎が解けた。


 そして、“金の滴”ではなく“銀の滴”のほうをタイトルにしているのは、現地徴用されて炊事班に配属された中里幸吉(春稀貴裕)が冨田に告げた「一度も見たことのない“雪”を見てみたい」との台詞からくるのだということが判ってくるとともに、終盤で与那城イト(佐々木愛)が冨田に捨てるよう諭した「武器」との対照としての「母語」の提示にこそ深意があることが伝わってきて、強い感銘を受けた。


 武器がもたらすものは死と破壊でしかなく、軍隊が守れるものなど何もなかった一方で、ウチナーグチを守ってきた沖縄の民衆を讃える意味でのアイヌ語であり、沖縄人に感銘を受けた冨田の呟きだったわけだ。そして、そのウチナーグチでもって繰り返し運玉森のギルーの心を説くおばぁイトの体現していたものこそが真の“守り”ということなのだろう。さすが文化座作品らしい魂の入ったよく練られた舞台だと思うとともに、自分たちで上映しながら観る機会を逸したままになっている高嶺剛監督の『ウンタマギルー』['89]を観てみたいとの想いが強くなった。


 思えば、いかにも士官学校出の秀才を感じさせた小野寺小隊長(米山実)の保っていた冷静さと誠実さに心許すなかで、絶望的な戦況に「兵士ではない民は速やかに米軍の捕虜となって戦後復興に努めてほしい」と説かれても、「それが正しくても、それは頭のなかの戦争であって米軍に息子を殺された儂らは、腹の立つことばかりされてもやっぱり日本軍を頼りにしてるんだ」と訴えて小野寺を項垂れさせていた与那城区長(阿部勉)が、日本軍への不信と憤りを露わにした契機は、高山軍曹(藤原章寛)が区長たちにウチナーグチを禁じ、これからは標準語で話さないとスパイと見做して処刑すると迫ったときだった。アイヌの謡から採ったタイトルの“銀の滴”とは、与那城区長たちにとってのウチナーグチすなわち「母語」ということなのだろう。最後に彼が「日本語の次にこれからは英語も覚えなければいけないのか…」と呟く姿が心に残った。


 戦場を生き抜く力に長けた高山軍曹から“使えない隊長”と小馬鹿にされていた小野寺小隊長という二人には、『プラトーン』['86]のエリアスとバーンズに投影されていた理念と現実の対照にも通じるものが窺えたけれども、その点では『プラトーン』には及ばない。だが、そこが本作の主題ではなくて、対照していたものという点では、やはり武器と母語に違いなく、そのことを明示するうえでの作品タイトルなのだろうと思った。


 最後、中里から預かった竹とんぼを米軍戦車を前にして放ったとき、機銃掃射の音はなく、キャタピラの音が再びし始めたところで止まった。機銃の音は、その後、あったのか、なかったのか。敢えて音を止めた部分は観る側に預けられたわけだが、僕としては、小野寺小隊長が与那城区長に説いて断られ項垂れたものを、奇しくも富田が結果的にその遺志を継ぐ形になって叶えたと思いたいところだ。








  ヤマ

http://www7b.biglobe.ne.jp/~magarinin/


   (『間借り人の映画日誌』)

http://www.arts-calendar.co.jp/YAMAsan/Live_bibouroku.html

   (『ヤマさんのライブ備忘録』)




posted by アーツワークス at 15:38| Comment(0) | TrackBack(0) | 演劇・パフォーマンス系
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