2018年08月28日

'18. 8.26. おさらい会リーディング公演vol.03『生きてゐる小平治』









'18. 8.26. おさらい会リーディング公演vol.03『生きてゐる小平治』

会場:西村謄写堂本社社屋


 名のみぞ知れど舞台でも映画でも本作を観たことのない僕には、これを怪談というなら、第一幕の郡山で殺されたように思われながらも十日後の第二幕において満身創痍で江戸に現れるばかりか、第三幕の旅装での二人になお付きまとう小幡小平治(山粼千啓)なんぞよりも遥かに、おちか(伊藤麻由)の怖さこそが怪談だと思った。歌舞伎役者の小平治と“長年の馴染”である囃方の那古太九郎(山田憲人)の二人ともから、“心の弱い気の優しい女”“やさしい気の小さい女”だと言われつつも、第二幕の最後では太久郎を焚きつけ「咽喉を、咽喉をもう一ツ。」とまで言っていた魔性に恐れ入った。


 タイトルこそ小平治がメインなのだが、このおちかをどういう女性として造形するかが本作の演出上の要になって来るように感じた。第一幕で太久郎が小平治を挑発したように、分相応の役者狂いに過ぎない女房の淫事(いたずら)だったのか。或は、小平治が言うように心底惚れ合っていて、第二幕では「生きられるだけ生き、時が来たら一緒に死にましょう。」とまで言っていたことも紛れなく真情として持っていたのか。そのいずれなのか、はたまた両方なのか。


 おちかの声の聞こえない第一幕と小平治の声が聞こえない第三幕を観ながら、僕の好みとしては、やはりその両方ともが真実であればこその女の怖さが浮かび上がる芝居であってほしく思ったのだが、その意味では、おちかの気の強さや性悪が強めに色づけられているように感じられた点が、やや気に沿わなかった。


 江戸に戻ってきた小平治から「女敵の太九郎を殺した」と告げられたのが嘘だったことに対して「小平次さん。お前は拵え事をしたのだね。太九郎を殺したなんて…まあなんというひどい嘘をいったんだろう。」という台詞にやや怒気が滲んでいるように感じられたのだが、ここは怒気よりも驚きと哀しみであってほしかった。そのうえで、思わぬ顛末に狼狽したまま答えを出しかねているうちに太久郎が刃傷沙汰に及んだことで、自身が答えを出す前に状況が追いやった事態に自分を乗じさせる勢い付けとして「そうだ。うまく行った。嘘つきめ! 咽喉(のど)を、咽喉をもう一ツ。」と囃し立てたと解したいところが僕にはある。小平治の側に行きかけながらも当てがなくなりそうになると太久郎の元に戻るしか身の置き所を見い出せない女の哀れの浮かぶ風情が欲しかったように思うのだ。


 そのためには小平治から「早く殺せ!」と迫られながらも「許してくれ。………。おれには殺せない。ああ、おれは恐ろしい」と震え、「おちかは貴様にやる。きれいにやる。連れていけ」とまで言っていた太久郎が矢庭に小平治に切りつけたことに対する驚愕と、その発端が自身の洩らした「太九郎どの、お前、わたしと別れるのかい」との言葉によるものであることへの怯懦が漂っていないといけない気がする。同時にそれは、太久郎が第一幕で「おちかに惚れているのはおれも同じだ」と言っていた言葉が単に小平治への対抗心からのものではない真情であったことの証としても現れなければいけないように思うのだが、そういうニュアンスが少々乏しかったように感じる。


 そして、太久郎がいないとなれば小平治と生きようと思い、小平治が殺されるのなら太久郎に加担することに躊躇の無いおちかには、独りではいられない頼り無さこそが全てなれば、第三幕での「連れて行っておくんなさいよ。お願いだから捨てないで…。」が、それこそ“色の諸分、濡れの手管”ではない女の真情として宿っていないといけないように思う。そうでないと、まさに「ほかに惚れた男のある女で、腹のくさった女房で、亭主の面に泥をぬる売女」になりかねないことになって興醒めてしまう気がする。


 やはり小平治と太久郎がともに“心の弱い気の優しい女”“やさしい気の小さい女”と言ったままの女性であることのほうが、女の怖さと倫ならぬ色恋のタチの悪さが浮かび上がってくるのではなかろうか。だから「なんでもわたしのせいにするのだねえ」とのおちかの嘆息には、恨みがましさの微塵もない哀しみが宿っていなければいけないように思う。


 演じた役者は三人とも声がよく、また声に力もあって語りがよく響いてきた。昔言葉の響きにある色気をなかなかよく感じさせてくれていたように思う。効果音などの音響効果が備わると、恐らくラジオドラマを聴いているような感じが漂ってくるのではないかという気がするが、リーディングだとやはり言葉が前面に出てくるように感じる。これはこれで悪くないものだと改めて思った。












   (『間借り人の映画日誌』)

http://www.arts-calendar.co.jp/YAMAsan/Live_bibouroku.html


   (『ヤマさんのライブ備忘録』)





posted by アーツワークス at 00:12| Comment(0) | TrackBack(0) | 演劇・パフォーマンス系
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